「おいキミ……眠いのか?」
ハッとして目を上げると、一番前の席で机に突っ伏していた男の子が警官に注意されていた。
「眠いなら教室から出て寝てていいぞ。その後で講習を受け直すほうが今後のためだからな」
免許の更新に行くと必ず受けなければならない「講習」に、その日わたしたちは2時間も拘束される羽目になっていた。
狭い教室の中に若い男女が20人。各々が眠気を噛み殺していたが、警官に注意される男の子を見て少し身を引き締める。
「高齢者が運転する車の事故が年々増えてきている。そういう人たちを対象に免許証の『自主返納』も呼びかけているから、高齢になっても運転している人が周りにいたら説得してほしい」
『「年寄りは運転するな」ということか……』
確かに危ないのは分かるが、運転する権利を取り上げられる高齢者はさぞ寂しいだろうなと切なくなる。
その後警察官は、昨年度交通事故で亡くなった人の数や歩行者を轢き殺してしまった男の末期などを淡々と発表し、これから免許をもらって運転しようとワクワクしている若者たちに冷水を浴びせ続けた。
「どーん!!!」
「・・・・・・ってな感じでぶつかるわけですなァ。くれぐれも気を付けるように」
急な大声に20人が「びくっ」とした。終業式でわざと大声を出し、ボーっとしている児童たちをビックリさせる小学校教諭を思い出す。
少なくともわたしは警官の言うことにメモまで取って覚えようとしていたのに、どうして他の人たちと同じようにドキッとさせられて寿命を少し縮めなければならないのだろう・・・・・・。そう考えると、目の前に立っているその男に沸々と憎しみの感情がわいてきた。
「ここで、『安全運転自己診断』をやってもらいます。わたしが質問を読み上げるので、『自分に当てはまる』と思ったものには丸をつけていってください」
・後ろからクラクションを鳴らされると、腹が立つ。
・渋滞時に、横から割り込まれると、損した気分になる。
・何度も信号で止められると、とてもいやな感じがする。
・歩行者や自転車に、自分のペースをみだされるのはいやだ。
免許を取ってからまだ一度も運転したことのないペーパードライバーなので、もし運転したらこうだろうなと予想しながら28問中21問に丸をつける。
「あなたは事故傾向・違反傾向にあるようです」
免許交付を待つ人の列は平日なのに部屋の外まで長く続いていた。その長い列に並ぶことなくスーッと部屋に入っていくわたしに向けられる「え、あの人並ばなくていいの?どうして?」という疑問の目。
交付窓口は2つあり、左側では「10100番から10200番までの方、こちらへどうぞ」と終始大声で呼びかけている一方、右側の窓口のお姉さんは「1~12番」と書いたボードを無言で掲げているだけだった。
『そうか、今日「失効手続き」に来た人は12人だけなのか・・・・・・』
「10番」と書かれた書類を持って歩み寄るわたしを見てお姉さんはボードを下げた。
免許証に記載されている有効期限から半年弱ほど時が過ぎていたことに気づいたのは先週のことだった。しかも失効手続きに来たのはこれで二度目だ。ちょうど3年前も同じ失態を犯している。
『すぐ腹を立ててしまう上に、更新期限を二度も逃すほどうっかりしているのなら、高齢者ではないけれど今すぐこれを返納したほうがよいのでは・・・・・・』
新しい免許証の中で微笑む自分は、何だかとても不吉に見えた。
ハッとして目を上げると、一番前の席で机に突っ伏していた男の子が警官に注意されていた。
「眠いなら教室から出て寝てていいぞ。その後で講習を受け直すほうが今後のためだからな」
免許の更新に行くと必ず受けなければならない「講習」に、その日わたしたちは2時間も拘束される羽目になっていた。
狭い教室の中に若い男女が20人。各々が眠気を噛み殺していたが、警官に注意される男の子を見て少し身を引き締める。
「高齢者が運転する車の事故が年々増えてきている。そういう人たちを対象に免許証の『自主返納』も呼びかけているから、高齢になっても運転している人が周りにいたら説得してほしい」
『「年寄りは運転するな」ということか……』
確かに危ないのは分かるが、運転する権利を取り上げられる高齢者はさぞ寂しいだろうなと切なくなる。
その後警察官は、昨年度交通事故で亡くなった人の数や歩行者を轢き殺してしまった男の末期などを淡々と発表し、これから免許をもらって運転しようとワクワクしている若者たちに冷水を浴びせ続けた。
「どーん!!!」
「・・・・・・ってな感じでぶつかるわけですなァ。くれぐれも気を付けるように」
急な大声に20人が「びくっ」とした。終業式でわざと大声を出し、ボーっとしている児童たちをビックリさせる小学校教諭を思い出す。
少なくともわたしは警官の言うことにメモまで取って覚えようとしていたのに、どうして他の人たちと同じようにドキッとさせられて寿命を少し縮めなければならないのだろう・・・・・・。そう考えると、目の前に立っているその男に沸々と憎しみの感情がわいてきた。
「ここで、『安全運転自己診断』をやってもらいます。わたしが質問を読み上げるので、『自分に当てはまる』と思ったものには丸をつけていってください」
・後ろからクラクションを鳴らされると、腹が立つ。
・渋滞時に、横から割り込まれると、損した気分になる。
・何度も信号で止められると、とてもいやな感じがする。
・歩行者や自転車に、自分のペースをみだされるのはいやだ。
免許を取ってからまだ一度も運転したことのないペーパードライバーなので、もし運転したらこうだろうなと予想しながら28問中21問に丸をつける。
「あなたは事故傾向・違反傾向にあるようです」
免許交付を待つ人の列は平日なのに部屋の外まで長く続いていた。その長い列に並ぶことなくスーッと部屋に入っていくわたしに向けられる「え、あの人並ばなくていいの?どうして?」という疑問の目。
交付窓口は2つあり、左側では「10100番から10200番までの方、こちらへどうぞ」と終始大声で呼びかけている一方、右側の窓口のお姉さんは「1~12番」と書いたボードを無言で掲げているだけだった。
『そうか、今日「失効手続き」に来た人は12人だけなのか・・・・・・』
「10番」と書かれた書類を持って歩み寄るわたしを見てお姉さんはボードを下げた。
免許証に記載されている有効期限から半年弱ほど時が過ぎていたことに気づいたのは先週のことだった。しかも失効手続きに来たのはこれで二度目だ。ちょうど3年前も同じ失態を犯している。
『すぐ腹を立ててしまう上に、更新期限を二度も逃すほどうっかりしているのなら、高齢者ではないけれど今すぐこれを返納したほうがよいのでは・・・・・・』
新しい免許証の中で微笑む自分は、何だかとても不吉に見えた。